2022年3月現在、コロナ禍の中で北京オリンピックが開催され、ロシアによるウクライナ侵攻等、世界情勢が緊迫しています。
今回、世界と日本の経済動向からファッション産業の今後を読み解き、ファッション・アパレル業界を志望する学生の参考にしてほしいと思います。
1.世界経済2022年〜2023年の見通し
3回目のワクチン接種等によりコロナとの共生(withコロナ)が進むなかで、消費や投資を柱とする自律的な回復へのシフトが本格化する。
今後の注目点は以下の4点。
第一に、世界的な物価の上昇。欧米の消費者物価は2%を超える上昇が続くと思われる。①これまでコロナ禍で消費を控えていた各国の過剰貯蓄が消費に回って、巨大な需要となることが予想される。②先進国では人手不足による賃金の上昇、③グリーン・インフレーション(気候変動対策に伴う物価上昇)の問題。今、世界は再生可能(クリーン)エネルギーへの切り替えが進行しているが、その脱炭素化による素原材料価格の上昇が先進各国で問題になっている。
第二に、アメリカの金融政策である。FRB(アメリカ連邦準備理事会/日本の日本銀行にあたる)は2月18日、40年ぶりと言われる高インフレに対応するため大幅な利上げで金融引締めを開始することに否定的な見解を示し、段階的な利上げでインフレを十分に抑制できるとの考えを示した。アメリカの金利上昇は特に新興国の景気に悪影響を与える要因になりうる。
第三に、消費の回復力である。イギリスは2月21日、新型コロナウイルス関連の国内の規制を全面的に撤廃すると発表した。成人の7割が3回目のワクチン接種を終え、国民の免疫は十分な水準に達し、コロナとの共生に踏み切った。今後、追随する国が増えれば人手不足による雇用・所得環境の改善が見込まれ、コロナ禍の過剰貯蓄が消費に回ることが予想される。消費は2023年にかけて回復が見込まれる。
第四に、グリーンやデジタルへの投資である。前述した、脱炭素社会への移行。また、DX(デジタルトランスフォーメーション/デジタル技術による生活やビジネスの変革)には巨額の投資が必要であり、今後、この2分野への投資拡大が世界経済の成長を押し上げると予測される。
これらを踏まえた、2022年の世界経済GDP(国内総生産)成長率は、3〜3.5%と予測できる。
現時点(2022年2月)で、世界経済の先行き不安があるとすれば以下の3大国の影響力である。
第一に、アメリカのFRB金利政策の動向。そして11月8日の中間選挙(連邦議会上院の議席の3分の1の34議席、および下院の全議席の435議席が改選)の結果。バイデン大統領の支持率低下はそのまま政策に影響を与える。
第二に、ロシアのウクライナ侵攻である。戦争そのものの負の影響も大きいが、株価の急落や経済制裁の応酬が世界経済の足を引っ張る懸念がある。特にEU(欧州連合)の天然ガスの50%近くがロシアからの輸入なので、これをストップされると世界経済への打撃は計り知れない。アメリカやNATOはじめ西側諸国は一切の軍事的介入はしないと言っているので、経済制裁は長期化の懸念がある。
第三に、中国の経済失速である。2021年9月に中国恒大グループ等の不動産業界の債務危機が報道された。不動産価格の急落は今後の不安要素である。
また、先進国が「コロナとの共生」政策への転換を模索している中で、中国は未だに「ゼロ感染」政策にこだわっていて、感染対策としての「都市封鎖(経済封鎖)」の見直しが求められる。
2.レジリアントに転換する日本経済
回復するかに見えた日本経済だが、今年1月からオミクロン変異株の感染拡大が始まり、3月までは厳しい状況下にあると思われる。オミクロン株流行による経済損失は1.2兆円とも言われる。感染がピークアウトすれば、雇用も確保されてコロナ禍で積み上がった50兆円もの過剰貯蓄が消費に回されるはず。日本経済も回復・好転すると思われる。2月22日時点でのワクチン3回目接種率は総人口の15.3%。岸田首相が目標に掲げる3回目のワクチン接種が、1日100万回のペースで実施できた場合、3月下旬には感染者数が5000人強になるのではないかと予測する識者もいる。
今後の消費動向だが、一時的にコロナ禍前を上回る可能性がある。そのポイントを二つあげる。
①一つ目のポイントは、コロナ禍で増えた貯蓄(過剰貯蓄)がどの程度、消費に回るか。2020年4月から2021年9月までの貯蓄はコロナ危機がなかった場合に比べて約50兆円増加した。この「増えた貯蓄」の4割が消費に回る可能性があると言われている。未だ収束が見えてこない状況だが、コロナ後の消費欲の高まりは十分に期待できる。収束後は特に対面型サービス業の人手不足が生じると思われ、本学でも2月以降になっても今春卒業生への追加求人依頼が途切れない状況である。
②二つ目のポイントは、コロナ収束後の生活様式、生活パターンがどう変わるかである。特に外食、旅行、室外娯楽等の支出がどう変化するか。
収束後、抑制されていた消費は一時的に盛り上がると思われるが、どの水準に落ち着くかが問題である。コロナ前と比べて、外食、旅行、室外娯楽等の支出を減らそうとする傾向も予想される。定期的な集まり・会合の減少、まとめ買いやネット通販利用の恒常化、リモートワークによる外出の減少等の生活様式・生活パターンの変化が予想される。
今後、経済活動の正常化により消費は着実に回復していく。2月23日時点での3回目ワクチン摂取率は16.48%。1回目ワクチン摂取率が80.3%なので、このレベルまで摂取率を高めることが一つの指標となる。
抑制されていた消費の一部が顕在化するほか、増えた家計貯蓄が消費に回っていく。また、経済活動の再開により、雇用・所得環境の改善も期待される。
3.雇用環境について
雇用環境は二極化していて、人手過剰と人手不足が並存している。外出自粛の影響が大きい飲食、宿泊などでは雇用者数がコロナ前と比べて70万人減と言われる。これらの業界以外では雇用者数が増えている企業が多い。
人手不足は今後も経済活動が再開するにつれて、さらに強まる可能性がある。これまで10年連続で女性の労働参加率が上昇し、コロナ禍でしばらく横ばいとなっているが、外出関連業種を中心に人手過剰の企業から人手不足の企業へと労働移動が顕著になると思われる。
3.ファッション産業全体の潮流
①ECの定着
コロナ禍で躍進したECですが、実店舗で活躍するスタッフのコーディネート画像を見て購入する消費者が増加し、業者間での競争も激化している。
②サスティナブル(持続可能な)産業への変貌
石油業界に続き、二酸化炭素排出量が2番目に多いアパレル業界に対して、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが進行しているが、
製造段階での水質汚染や衣服の廃棄等、ファッション業界はこれまで環境負荷が大きいと言われていたが、古着の回収・リサイクル等に力を入れるアパレル企業も増え、SDGsを企業理念に取り込む動きも活発化している。
③アジア圏への進出加速
少子高齢化が進む日本だが、世界人口は2020年の78億人から2030年に85億人、2050年に97億人とさらに増えていくと予測される。国内市場の縮小を見込んで、ユニクロ等は海外店舗を増やしている。2021年8月期でユニクロの国内店舗数は810店舗。海外では1,502店舗を展開していて、中国だけでも832店舗、すでに国内店舗数を上回っている。アジア圏の人口増加と経済成長は巨大なアパレル市場の出現を意味している。
4.新しいファッション業態の出現と職種の多様化・高度化
①異業種からの参入が加速
アパレル業界はもともと、異業種から参入しやすい業種である。
ニトリは成人女性を対象としたアパレルブランド、「N+」(エヌプラス)を展開している。作業着専門店だったワークマンは近年、機能性重視のアパレルを開発し、人気を集めている。
ファッション性だけでなく、機能性や専門性を重視したアパレルとして、市場開拓が進んでいくと予想される
②消費者意識の変化
スマートフォンの完全普及(本学学生も100%所有)によって、情報端末利用が個人化している。また、家族間でも互いに干渉しない個人志向が強まっている。
これらにより、特に以下の3点の消費行動の変化が考えられる。
第一に、コロナ禍の影響もあって購入の利便性が増していること。
第二に、SNSで同じ趣味嗜好者とのやり取りを重ねて個人志向へのこだわりが強くなること。
第三に、家族ではなく外部とのつながりの拡大が、コト消費(体験にお金を使う)やシェアリングエコノミー(ネットと通じてモノ、スキル、スペース、時間等を共有する)の基盤になっている。
これまで、服は購入して着るのが当たり前でしたが、レンタルで服を着る定額制のサブスクリプションサービスも普及してきた。ショップでイベントを開催して「モノ消費」から「コト消費」として売上を伸ばしたり、ライブコマースやSNSを活用する新しい販売戦略の展開も目立ってきた。
以上、世界経済の動きから今後の流れを解説しました。
次回はこれらをふまえて、「2022年の就活予想」をお届けします。