「週刊TVガイド」前編集長・並木朋子さん(N) × 編集プロダクションティープレス代表・池田先生 (I)
当校には『週刊TVガイド』などの雑誌や『堂本剛 写真集』他の書籍に数多く関わる編集プロダクション「t-press(ティープレス)」があります。昨年は、映画『ハナミズキ』のオフィシャルフォトブックを編集し、キャストの撮影をカメラマンでもある野間理事長が、デザインを常勤スタッフの石川先生、三船先生らが担当しました。また、在学生にとっては、現場研修を経験できる機会があったり、さらに卒業生とは、現場で一緒にお仕事をすることで繋がりを持ち続けるなど、スタイリストや衣装製作を目指す人にとっては、校内でとても貴重なセクションです。
今回は15年以上も仕事を通して交流がある、『TVガイド』前編集長・並木さんとティープレス代表の池田先生に「評価されるクリエイターになるためには」というテーマで討論していただきました。
——おふたりの経験上、評価されるクリエイターになるために、学生のうちに努力すべきことは何でしょうか?
(N):知識や経験とか、人としての“引き出し”を作ることだよね。いろんなものを見て、聞いて、話して。そして、いろんな場所へ行って。それがクリエイティブの仕事では絶対に肥やしになるよね。
(I):撮影現場やインタビューでタレントさんとお話していると、いろんな話題が出ますよね。「これ知ってる?」と聞かれることがどうしてもあって。様々なジャンルのことを知ってなきゃいけないっていう実感は結構あります。その仕事の知識プラスαみたいなものは常に持っていないと。どんな職種であれ、クリエイティブの現場に出た時に(知識や経験がないと)辛いですよね。
(N):私は30代後半くらいから、雑誌の表紙のキャッチコピーを考えるようになったのね。私たちの表紙で言えば、特大ネームで5〜6文字。限られた文字数でどう表現すれば、女の子が雑誌を手に取ってくれるかを考える時に、週刊誌だし、とにかく季節感だ!と思って、俳句とか季語とかを読むようになったんだよね。若いうちにやっておけば良かったなあって思った(笑)。
(I):そういうのは大事ですよね。私は昔から、阿久悠さんていう作詞家の方が書く歌詞が好きで。ピンク・レディーさんとか、石川さゆりさんとか。学生時代は歌番組を見ながら、一生懸命歌詞を写していましたね。たとえば、都はるみさんの『北の宿から』という曲では、「あなた変わりは ないですか」のように7.5.7.5で作っているんですよ。限られた文字数で季節感やストーリー性を表現する言葉選びにすごく感動して。夢中でたくさんの歌詞を写していたことが、今の仕事に役立ったなと思うことはありますね。
——遊んでいても、ただ「楽しかった」と終わるのではなくて、どこかプロ意識を持つことが大切なのでしょうか?
(N):若いうちはただ「楽しかった」で良いと思う。社会に出て10年くらいまでは、それだけで絶対に引き出しになってるから。変にプロ意識とか考えると、疲れちゃってかえって身に入ってこないんだよね。
(I):たぶん力抜いてやったことが、後で生きてくるんじゃないかな。
(N):そう。自然に吸収されてるのよ。好きなものを見つけて夢中にやるのが、社会人10年目までは大切だと思う。
(I):学生時代も同じですよね。
(N):社会人になったばかりのころは何も出来なくて、上司から「何やってんだ!」って言われるものだから。学生時代は特に仕事がどうとかってやると、絶対壁に当たる。「こんなに頑張って来たのに、全部無駄だったの?」って。真面目な子は特にね。だから、本当に好きなことをあっけらかんってね。バイトして、とことん楽しんでもらえれば。ただ、「プロ意識を持って…」っていう危惧も分かるのね。でも、それはまだ好きなことに対して中途半端だから感じるんだと思う。それこそ自宅に帰って来たら何もする気が起きないくらい無我夢中でやらないと!
——部下や外部のスタイリストやカメラマンを「評価する」立場にあるおふたりから、若い人たちに「評価される」時のアドバイスなどありますか?
(I):怒られるうちが華! みたいなね(笑)。
(N):厳しい!(笑)。でも怒られなくなったら、いらないってことだもんね。
(I):期待があるから、声もかけるわけだし。
(N):よく好きか、嫌いかっていうけど、仕事は好きなだけじゃ続かないよね。
(I):並木さんだって、何よりもテレビが好きかって言われると、そうじゃないかもしれないですよね? 映画やファッションの方がもっと好きかもしれないし?
(N):今でこそ、ジャニーズ担当なんて言われているけど、実は私の青春時代に憧れのジャニーズのタレントはいなかったの。
(I):え~っ、本当に?
(N):かわいいなとは思ったけど、追いかけることはなくて。だけどジャニーズタレントの担当になっちゃったの。私はスポーツ選手が好きだったから、彼らを追いかけたり、インタビューしたりしたかった。でも、やんなきゃいけないから、アイドル誌とかで勉強するじゃない? それでも何を撮ったらいいか、何を聞いたらいいか、皆目検討もつかなくて。その時の上司に「気持ちが入らないから、違うジャンルを担当させてくれませんか?」って言ったのよ。まだ編集部に入ったくらいの20代の時に。そしたら「お前の気持ちなんて関係ねえんだよ。売れるものを考えろ!」ってバッサリ言われたのね。それが目から鱗だった。それで現場にかよい詰めて、タレントさんを見て、話してるうちに「こういうところが人気ある理由なのかな?」とか、少しずつ分かるようになって。そこからもう20年(笑)。今では、ジャニーズ好きだって言われるように(笑)。私としてはシメシメって感じだけどね。そういうふうに思わせるくらいになったっていうことだから。
(I):好きだけでは、そこまで頑張れなかったかもしれないですよね。仕事では、分からないからこそ探っていく努力も必要で、その結果として確実な物が出来るんですよね。
(N):だから学生さんには、“上から言われたことは間違いなくやること”と、“その言われたことを自分で考えて、さらに応用する力”を身につけてほしい。今の傾向として、言われたことしか出来ない若い子が多いと思う。言われたことは当たり前にこなして、そのことから派生する他の幅を持ってもらいたい。
(I):評価されるクリエイターは、印象が良く仕事こなすだけではなく、応用力などの技術もないとダメですよね。
(N):3回目以上、頼みたくなるクリエイターはそうだよね。1、2回目は「間違いなかったな」とか「現場に連れて来たら意外とダメだ」とか、その人のスキルが見えてくる段階。3回目くらいになって、言われたことが的確に出来て、なおかつ幅があるクリエイターかどうかがわかる。そういう人が仕事仲間として認められる。池田さんの場合も、依頼した通りに応えてくれて、しかも自分から提案を持ってきてくれる。仕事仲間として、私としては良い人を選んだなって思う。
(I):ありがとうございます。うちのスタイリスト科の学生たちも、2、3年スタイリストアシスタントをしたら、独り立ちしたいという願望があると思うんですよ。でも、フリーになったからって、すぐ仕事が貰えるわけじゃない。1回目、2回目くらいまでお付き合いで仕事をもらえるかもしれない。ただ、3回目、4回目と続くためには、並木さんがおっしゃったように、努力する姿勢や応用力がないとダメ。繰り返しになりますが、学生のうちは、何が勉強になるとかいうことではなく、好きなことをがむしゃらにやって、たくさん“引き出し”を作ることから始めてもらいたいですね。
並木朋子 氏
株式会社東京ニュース通信社「週刊TVガイド」前編集長
女性として初の「週刊テレビガイド」編集長。これまでに「堂本剛さん」や「水島ヒロさん」ほか数多くのタレントの写真集をはじめ、テレビや映画のムック本、関ジャニエイトのカレンダーなどを手がけてきました。また、本校の編集プロダクションのt-pressとも親交が深く、2010年度の卒業制作ファッションショーでは、審査委員長をご担当いただいています。
池田衣里 先生
編集プロダクション『t-press』代表
アーティストのツアー&舞台のパンフレットほか、エンターテインメント全般のムック編集製作に携わる。
ティープレスが担当するおもな雑誌は「週刊 テレビガイド」「オトナファミ」「JCOM」「ポポロ」など多数。
エンタメ系雑誌を多く手掛けるt-pressを通して、スタイリストコースを中心にスタイリストアシスタントや衣装製作などの研修や就職に関わる場面で皆さんのサポートをしています。