今回は広告写真を数多く手がけるフォトグラファー鈴木英雄さん。ファッションデザイナー・コシノジュンコさんを師事し、現役ファッションデザイナーで当校の教師である鷺先生と、コシノジュンコ事務所で鷺先生の弟弟子でもあった藤重寛志さん。御三方の実体験から『夢の叶え方』について討論していただきました。
社団法人日本広告写真家協会会員のフォトグラファー鈴木英雄さん(Su)× 藤重寛志さん(F)× 鷺先生(Sa)
——ずばり、夢を叶える手法というのはあるのでしょうか?
(Su):夢というのは裏を返すとビジョンのことで、分析すると「目的×時間」のことなんですね。「夢」って漠然と考えるのではなく、「僕は何になりたい」という「目的」。それに対して「×(かける)時間」をしないといけない。つまり、「いつまでに何をする」か。その時間の分け方が重要なんです。人間は一つの事で一人前になるまでに一万時間が必要と言われています。それを「一万時間の法則。と言うらしいのです。毎日10時間学んだら、約3年間で叶う。その一万時間をどう使っていくか。高校生なら、時間の振り分けとして、「どの学校に進学するのか」にかなり大きな割合があると思います。その学校にどんな歴史があるか、可能性があるのか。その学校が持っているエネルギーが一番大事ですね。
(F):おっしゃる通りだと思います。1日の長さは人間誰しも平等な24時間ですよね。その時間をいかに工夫して使うか。茶筒に例えると、茶葉を筒に入れていっぱいになったと思っても、振れば隙間ができる。時間にもそのことがいえて、「学校や部活が忙しくて時間が取れない」という高校生も多いですが、いかに工夫して時間を作れるか。その時間を「将来の目標」に使える時間に変えることが夢を叶えることに繋がる。僕はそういう意識をもって取り組んでいましたね。
(Su):それと学校の中で一目おかれる人が伸びますね。それは物作りに対しての姿勢や気迫を周りに感じさせる。例えば、同じ課題でも、ただやっただけの学生と、「ここまでやったのか!」という違いですね。僕が学生時代に一番嬉しかったのは、課題の評価に「評価なし。このままやれ」って先生が書いてくれたことですね。久々にその先生にお会いしたときにも「あの課題は覚えているよ」と言ってくださったんですよ。だけど、その課題も1回で出来たわけじゃないんです。何回も失敗して何回もチャレンジして期日に間に合うように提出した。その課題に打ち込むエネルギーって、先生たちも伝わってるんですよ。それに向かうエネルギーをいかに出していくかが大切で、技術は下手でもいつか上手くなるんですよ。
——学生の頃に思い描いていたフォトグラファーやデザイナーと、実際にアシスタントになって実際の仕事を体験してみて、「夢」と「現実」のギャップはありましたか? もしあったとすれば、それをどのように乗り越えて来ましたか?
(Sa):私がそのギャップを経験したのはコシノジュンコさんの事務所にいたときですね。イベントがしょっちゅうあるんですけど、主催者から「今回はこれだけしか予算が下りません」って言われて。「これだけじゃ作れない!」って、学生の頃は自分の作品作りの予算は自分で多少なりとも決められるじゃないですか。でも、実際にプロの世界はそうじゃないんですよね。それでも、ジュンコ先生は予算がないところを試行錯誤してやり遂げられたんですよ。そのやり方をジュンコ先生から学びましたね。先日、衣装製作の依頼を受けた時に、ひと桁金額が違うんじゃないかってくらい少ない予算だったんですね。でも、そのとき、ジュンコ先生のもとで学んだことを思い出して、「ここはデザイナーの腕の見せ所だな」って。予算がなければないなりに工夫をする。それにギャップを乗り越えたときの達成感ってちょっと快感なんですよ(笑)。
(Su):僕の場合、どうやってギャップを乗り越えたかと言うと、勝手にライバルを作るんですよね。「あいつが2時間しか寝ていないのならば、自分は1時間しか寝ない!」とか。ただ、常に同じ人をライバルにするんではなくて、いろんな人に対して自分を奮い立たせるライバル心をもつ。あとは、やっぱり「才能」の話ですよね。学生の中で「自分は才能が無い」って悩む人がいると思うのですけど、僕は才能のある人間なんて、この世の中には絶対にいないと思います。そのことにいかに気がつくか、気づいた人間の勝ちですよ。そうすれば、自分の努力が足りないのに、「才能が無い」という結論で片付けられなくなるから。いかに自分がさぼっているか、に気づく。これに気がついた人が勝者ですね。
(F):僕はファッション業界って1に「体力」、2に「努力」、3に「我慢」だって思っています。4がなくて、5に「センス」みたいな(笑)。
(Su)&(Sa):あ、言っちゃった(笑)。
(F):僕も鈴木さんがおっしゃった様に、絵に自信が無いなって思えば、「あいつが20枚描くなら、自分は100枚描く!」ってやってましたね。それを学生のうちからやっていると、現実のしがらみなんかに直面しても、そういう努力をして来た自信があるから強いんですよ。あとは、逆にそれを逆手にとって楽しみにして、困難をクリアするごとに新しい何かが見えるんじゃないかという期待感をもってましたね。
——最後に、夢に向かって頑張ろうとしている学生たちに向けて、それぞれメッセージをお願いします。
(Sa):そうですね。「自分は将来こうなりたい」ということをイメージして、そのことを強く願うか。いかに強く願うかだと思います。
(F):諦めないことですね。夢は寝てみるものではなく、叶えるものなので。うまくいかないこともたくさんあると思うけれど。諦めずにいろんな「可能性のドア」を開ける努力をしてほしいですね。最初のドアがいつも開くわけじゃなくて、そこで諦めずに「開ける」という行為を続けていけば、いつかは開くと思います。もしかしたら10番目のドアかもしれないから。
(Su):僕の持論は、「教えてもらうのではなく、自分で学ぶ」。僕も学生時代は「授業料さえ払えば、教えてくれるのだろうな」「厳しい先生のところにつけば、教えてくれるのだろうな」って思っていました。でも、そうじゃないんです。それはどんな職業でも同じ。学校の授業を雨に例えるなら、「雨は全員平等に降る」。こっちが多いとか少ないとかは無い。「雨」を手で作った器でいかに受け止められるか。手の隙間を開けていてはダメ。自分の心構えひとつで水が溜められるかどうかは決まるんです。今回、tfacの授業を見学させていただいたんですが、学生のみなさんがしっかり「雨」を受け止められている印象を受けました。
(F):ありがとうございます。当校にはいろいろな個性の学生がいて、お互いに良い刺激になっているようです。先ほどおっしゃっていた「自分のライバルを持つ」ということにも繋がっていると思います。そして、我々先生たちも学生たちに「将来の道しるべ」を伝えて、卒業後でも行き詰まったときにはサポートをする姿勢を大切にしています。そのためにも、先生たちも良い意味で「ライバル心」を持ちながら、お互いに自分を磨いていければと思っています。
鈴木英雄さん
社団法人日本広告写真家協会会員フォトグラファー
株式会社ポインター代表取締役
現在、広告写真を中心に活動中。
■受賞履歴
朝日広告賞
毎日広告賞
日本産業広告賞金賞受賞
日本広告写真家協会展特選賞
ニューヨークデザイン賞入選
JRポスター展グランプリ
その他入賞、入選多数
鷺典子先生
tfac 3年専攻科コース担当
グレイスデザインオフィス代表
コスチュームデザイナー
株式会社コシノジュンコデザインオフィスを経てグレイスデザインオフィス設立
【舞台衣装】オペラ「魔笛」「デスゴッテス」、ミュージカル「ハロルド&モード」「バケレッタ」「エドガーさんは行方不明」
【ミュージシャンコンサート】
小林幸子 第53回NHK紅白歌合戦、Tulip 全国ツアー 、真琴つばさ 三浦涼介等の衣装デザイナーとして活躍